[ベオグラードの街角で]ホストカントリーの躍進は大会後も続くのか?(欧州選手権2016)
2016/08/27
セルビア代表の試合がある日のベオグラード・アリーナは、その他の日と雰囲気が違う。ダフ屋が何人も入口近くをうろうろし、セルビアの国旗を販売する人がいたるところに現れ、普段はガラガラの駐車場が満杯になる。大会開幕前日に会場の周囲やベオグラードの中心街を見て回ったが、欧州選手権開催を知らせる広告や案内はほとんどなかった。空港にもなければ、市街地へ向かう高速道路からも目にした記憶がない。カゼルタ、ポルト、デブレツェン、ザグレブと過去の開催地に比べて、アナウンスが少ない。地元の人に大会は認知されているのか。
開幕戦の光景を見て、そんな疑念は一気に晴れた。
セルビア戦は開幕戦から3位決定戦まで5試合全てが1万1,161人と通路に人が座るほど、館内は人であふれ、試合翌日のスポーツ紙の1面は代表チームの話題で埋まり、閉幕翌日は集合写真のポスターが付録だった。彼らは国民の英雄となっていた。
今回の欧州選手権は20試合で11万3,020人を動員し、2012年のクロアチア大会の9万5,609人の記録を更新。また欧州選手権の1試合の最高入場者数もセルビア代表のゲームが更新した。セルビア代表以外は、グループリーグでは1,500人から3,000人という試合が大半だったので、彼らの躍進があってこその大会の成功だった。
セルビアは4位となった。彼らの躍進を大会前に予想した人はどれだけいただろうか。彼らが過去に欧州選手権本大会に出場したのはこれまでに3度。2010年、2012年と準々決勝まで勝ち進んだが、セルビア人以外にはさしたるインパクトは残していない。僕もセルビアといえば、2007年ポルトガル大会のグループリーグでスペインと1-1で引き分けたくらいしか記憶にない。さしたる実績もない国が、グループリーグではポルトガルを破り、1位突破を果たすと、準々決勝ウクライナ戦では残り0秒での劇的決勝点で史上初めてのベスト4進出。ロシアとの準決勝は、延長戦までもつれ込む死闘だった。
今大会の彼らの最大の武器は、大観衆の後押しだ。1対1をつくるパスワークを基本戦略にしたチームは、観衆の後押しを受けて、タレントを存分に発揮した。また準決勝では経験の浅い審判が観衆の重圧に押しつぶされ、ミスジャッジを繰り返し、ホームチームに有利な判定が多かった。左サイドからの崩しが得意なキャプテンのペリッチ、ドリブル突破が魅力のコシッチ、得点力が高いライセビッチらが活躍する面白いチームだった。
この大会を契機にセルビアは躍進するか。ポルトガルとの欧州予選プレーオフを勝ち抜いて、彼らはコロンビアのワールドカップに出場するかもしれない。本大会でも上位に進出するかもしれない。だが、僕が期待できるのは今年いっぱいで、来年以降は悲観的だ。なぜならセルビアには自国に競争力の高いリーグがないからだ。欧州選手権過去10大会で優勝したのはスペイン、イタリア、ロシアの3カ国だけ。競争力が高いリーグを持つ3カ国は常に強豪国だ。
初戦のスロベニア戦で第2PKをセルビアが手にした時に、観衆のほとんどは何が起きたのかを理解できていなかった。フットサルが好きだけではなく、セルビアが好きだからこの人たちは会場に来ていた。と同時に彼らの日常にフットサルがないことを痛感した。
キャプテンのペリッチはイタリア、ゴレイロのアクセンテビッチはロシアのクラブに所属し、他の選手もルーマニア、クロアチアのクラブでプレーしている。しかし選手を輸出するだけでは、チームの底上げ、世代交代にも限界がある。今の主軸であるペリッチは32歳、コシッチは27歳、ライセビッチは30歳と伸びしろがある年齢でもない。自国リーグという育成、強化の土台がない国の代表チームは強豪になれない。
2012年の自国開催の欧州選手権で準決勝進出を果たしたクロアチア代表。2014年欧州選手権は準々決勝進出、今大会はグループリーグ敗退。そしてワールドカップ予選も敗退している。自国開催の欧州選手権をピークに下り坂だ。セルビアも隣国と同じ道を歩むのだろうか。それとも今大会の盛り上がりをきっかけに、自国リーグを盛り上げよう、整備しようと動くのか。