観衆の力でも埋められなかった実力差
2016/08/28
ロシアとクロアチアの間には大きな実力差があった。
クロアチアが準決勝まで勝ち上がってきたのは今大会の開催国だったから。そうでなければ彼らはウクライナやルーマニアには勝てていなかっただろう。
クロアチアはディフェンスが脆弱でセットプレーの精度も高くなく、バリエーションも少なかった。特にクロアチアとロシアの大きな差となったのが攻撃だ。残り12メートルからの規律、アイデアの共有だ。
クロアチアはこの日2得点を決めたマリノビッチなど身体も強く、テクニックに優れた選手たちがいる。特にマリノビッチのドリブルでの間合い、そしてシュートのタイミングなどは明らかに特別なものを感じさせる選手だ。しかし、彼にはロシアのシリロやフキンのようなチームプレーの中で自分の長所を活かすというプレーがなかった。
それはクロアチアの攻撃に12メートル先からのチームとして規律、もしくは選手同士のアイデアの共有、コンビネーションがないからだ。言ってしまえば、攻撃は個人技任せ。セットプレーもシュート力など個人に依存したものが多い。
ロシアのファーストセットと見比べてみるとそれは顕著だ。ロシアのファーストセットにはフキンやロシア国籍を持つブラジル人シリロ、プーラなどはいない。彼らはセカンドセットだ。ロシアのファーストセットはみんな線が細く、これといった個人技を持っている選手ではない。だが、先制点を決めたプルディンコフのように彼らには身に染み付いた個人戦術があり、インテリジェンスがある。決して秀でてはいないが、味方のそれぞれの長所を発揮させることができる規律がある。この日ファーストセットだった線の細い4人が織りなすコレクティブなフットサル。ゴールをどうやって決めるのか。彼らは緻密な計算をし、明確な設計図を持ちながら、それに沿って走り、シュートまで辿り着く。
1対1の局面をつくるだけで、あとはお任せのクロアチアとは格が違った。
両者の実力差は前半ピッチに、そしてスコアボードに如実にあらわれていた。
クロアチアには未来はあるのか?
では、そんなクロアチアがどうやってここまで勝ち進んで来たのか?
それは観衆の力によるところが大きい。この日、ザブレブアリーナは1万5千人の観衆で埋まった。チケットはクロアチアが準決勝進出を決めた翌日に売り切れ。会場のほとんどが母国を応援していた。1万5千人が束になって叫ぶ。ブーイングをする。審判に判定への不平をもらす。惜しいチャンスには溜め息をつく。一体となった会場はクロアチアに大きな力を与えていた。
本当は何でもないシュートが地元観衆の声によって誇張され、あたかも大きなチャンスのように見える。愛国心が強い国民に支えられたクロアチア代表は常に今大会、満員のサポーターに支えられていた。
ロシア戦もクロアチアがパワープレーを仕掛けた4−2の終盤。クロアチアのシュートがポストに当たった。あれがゴールの内側に転がっていたら、試合はクロアチアに傾いたかもしれない。会場は狂気乱舞し、残り時間も1分半近くはあった。ロシアがその雰囲気にのまれていたかもしれない。
クロアチアは準決勝で敗退。チームとしてはコレクティブなプレーは少なかったが、選手個々を見ればマリノビッチのような偉大なタレントを持った選手たちがいる。彼がインテリジェンスを手にし、しっかり成長できれば、おもしろいチームになるだろうが、僕はそれはしごく難しいことだと考えている。
代表チームは短期的に合宿をやり、親善試合を重ねれば、今回のクロアチアのようにチームとしてまとまり、いい結果を出せるかもしれない。しかし、スペインやロシアのように希族的にその強さを維持しつつさらにチームを強化させるには定期的な親善試合、そして選手を育てる高い競争力を持った国内リーグがなければ難しい。もしくは選手が外国のリーグのクラブに移籍をするか。
クロアチアのスポーツ新聞は準決勝のこの日、1面がフットサルだった。準決勝のプレビューで巻頭の4ページが割かれていた。毎日のニュースでもスポーツニュースのトップは自国の代表チームのことだった。
さて、こういった報道や注目はクロアチアのフットサル、国内リーグにどんなことをもたらしてくれるのか。それとも今大会だけ盛り上がって、終わりなのか。
クロアチアの未来は国内リーグの活性化ができるかどうかに懸かっている。
スコアシート
UEFA欧州選手権クロアチア2012 準決勝(2012/2/9)
Croatia 2-4 Russia
- 0-1プルディンコフ(ロシア)35秒
- 0-2シリロ(ロシア)5分
- 0-3アブラモフ(ロシア)15分
- 0-4プーラ(ロシア)20分
- 1-4マリノビッチ(クロアチア)26分
- 2-4マリノビッチ(クロアチア)36分