座間健司ブログ

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欧州選手権

スペインフットサルの勝利

2016/08/28

ゴールを決め絶叫するスペイン代表セルヒオ・ロサノ

延長戦でキックインからミドルシュートを決めたスペイン代表のセルヒオ・ロサノ(右)が絶叫する。今大会得点がなかったセルヒオ・ロサノは決勝で2得点とスペインを欧州王座に導いた。

スペイン代表キャプテンであるルイス・アマドのセービング

スペイン代表キャプテン、ルイス・アマドが終盤に好セーブを連発。ルイス・アマドとキケは個人として5度目の欧州王者を手にした。

それはピヴォだ。アラ−ピヴォではない、典型的なピヴォだ。現在のフットサルの世界では絶滅種になりつつあるこのポジション。今大会、このポジションを務めるスペシャリストがスペインにはなく、ロシアにはいた。

ロシアにはロシア国籍を持つブラジル人のシリロがいた。シリロは同じくロシア国籍を持つブラジル人のプーラといっしょにピッチに立つ。そのセットにはディナモ・モスクワのアタッカー、フキンもおり、彼らは所属チームが同じシリロを起点に決定機をつくっていた。

身体が大きく、ボールをしっかり懐におさめることができるピヴォがいれば、戦術もシステムも変わってくる。ピヴォがいれば、まず時間ができる。タメがつくれる。ピヴォが高い位置でボールをキープしてくれるので、そこに飛び込んでいけば、味方の選手はそのままシュートを打てる。

またラインも簡単に上げることができる。ピヴォにボールを預ければボールを奪われないので、プレス回避などより容易になる。ピヴォがいることにより、ポジションが固定される嫌いもあるが、それは他のセットに任せればいい。ピヴォがいることはつまり戦術がひとつ自動的に増えることを意味する。

スペインには生粋のピヴォがいなかった。準決勝から観戦に来ていた私服のフェルナンダウがスタンドにいたが、彼にはユニフォームはない。大会直前に筋肉の故障により、3週間の離脱を余儀なくされ、メンバーから外れていたからだ。このスペイン国籍を持つブラジル人ピヴォの不在はスペインから攻撃のバリエーションをひとつ奪っていた。その不在は同等のポテンシャルを持つチームと対戦すれば、色濃くなる。ロシア戦ではピヴォ−アラのラファ・ウシン、ボルハ、また時には身体が強いアラのトーラスがピヴォの位置に入り、ポストプレーをこなしたが、やはりスペシャリストに比べるとその仕事の質は劣る。

もしフェルナンダウがいれば、スペインはこんなにも決勝で苦しむことはなかったのかもしれない。

プーラの得点とシリロの退場

スコアボードが動いたのは後半だった。2008年ワールドカップ得点王のプーラが左サイドから中央へ切り込み、右足一閃。強烈なシュートはディフェンスの股の間をすり抜け、右ポストを揺さぶり、そしてネットを揺らした。

ロシアが先制するが、スペインは全く焦らない。

後でテレビ中継を見返したが、スペインは失点後にタイムアウトをとっている。それはパワープレーを仕掛けるためのものだった。そのタイムアウト。ベナンシオ監督は言っていた。「あと5分ある」タイムアウトが終る直前、キケも仲間に声をかけていた。「あと5分もあるんだ。焦らずに落ち着いていこう」5分間ある。それならばパワープレーから確実に同点にできる。彼らの自信、その冷静さにはいつも感嘆させられる。

しかし、パワープレーはなかなかうまくいかなった。今回のスペイン代表は初めての欧州選手権を戦う選手が多く若い。パワープレー時、セルヒオ・ロサノがトラップミスをすれば、ミゲリンも不用意にとられ、ラファ・ウシンも肝心なところでボールをプッシュできなかった。経験がないからか、軽率なミスが目についた。

ロシアはスペインにパワープレーで仕掛けられた時間帯、ボールを持てば、それを保持しようとシリロを投入した。彼の懐にボールをおさめ、パスを回し、相手を焦らそうとしたのだ。だが、その策は頓挫してしまう。肝心のピヴォがいなくなったのだ。シリロがキケと競り合った際にファウルをアピールするために派手に倒れた。このプレーが軽率だった。シリロはシミュレーションで2枚目のイエローを受けて、退場。スペインは3人のフィールドプレーヤーを相手にキケをゴレイロに5人で攻め始めた。

だが、スペインは決定機を掴むも決めることができず。ロシアは数的不利な2分間を失点することなくやり過ごす。トーラスのシュートを顔面でクリアし、ボルハのシュートのリバウンドを大きくクリアしたロシアのプルディコフが絶叫する。それにロシアベンチも応える。

時間はついに1分を切った。

セットプレーとパワープレー

ロシアになくて、スペインにあったもの。

ピッチ外にはいっぱいあった。まず両チームのテクニカルスタッフの数が違った。ウォームアップ時に驚いたのだが、ロシアにはフィジカルコーチがいないようだった。セルゲイ監督がカラーコーンを置き、選手たちにウォーミングアップを指示していた。また当然ながらゴレイロコーチもいなかった。第2監督、フィジカルコーチ、ゴレイロコーチ、そしてシェフも連れて来たスペインはロシアに比べて、よりプロフェッショナルな集団だった。

ピッチ内ではセットプレーとパワープレーにおける精度とバリエーションが違った。

残り34秒、スペインはパワープレーからセルヒオ・ロサノが得点を決めて、土壇場で同点にする。左後ろにいたロサノはパスをトラップと同時に足裏で押し出し、右足を振り抜く。今大会1点も決めていなかった現在スペインリーグ得点王のシュートは相手ディフェンスに当たりコースが変わり、ネットを揺らした。

勝利をほぼ手中におさめていたロシアは全員ががっくり肩を落とす。控えのゴレイロのスエブはボトルを蹴っ飛ばすなど目の前にあるもの全てに当たり散らしている。

試合は前後半5分の延長戦へ。決勝点が決まったのは延長後半だった。

右サイド、相手ゴールから約10メートルのところからキックイン。キッカーのキケは中央にグラウンダーの速いパスを送るとそれをセルヒオ・ロサノがダイレクトで叩く。セルヒオ・ロサノのミドルシュートは相手ディフェンスにまたも当たり、ゴールに吸い込まれた。

セルヒオ・ロサノがスタンドにいる恋人に向かって絶叫する。そんな彼にミゲリンが抱きつき、そしてキッカーのキケが走っていた。スペインベンチは喜びを爆発させていた。

スペインのセットプレーの精度は高く、バリエーションは豊富だ。トーラス、ロサノ、アイカルドのシュート力も高く、またキッカーのキケ、オルティスの4秒の使い方、選択眼には文句のつけようがない。ロシアのセットプレーも完成度は高いが、スペインのクオリティーには及ばない。ベナンシオ監督はキックインなどセットプレーの練習を重点的にこなしていた。決勝点は選手のタレントも讃えられるが、テクニカルスタッフの仕事の成果でもある。

ロシアはパワープレーを仕掛けるが、スペインのゴールマウスにはルイス・アマドが立っていた。ロシアは決定機を2度手にしたが、"世界最高の選手"がそのシュートを弾き出した。

スペインは最後にボールをクリアしたボルハのシュートが終了を告げるブザーと共にネットを揺らし、3−1で勝利した。

今大会、スペインは大会直前にフェルナンダウ、そしてポラが負傷で戦線離脱。さらにはアルバロも2分出場しただけで、ピッチに再び立つことはなかった。全てが計画どおりにいったわけではない。それでも追加召集されたミゲリン、アイカルドが大活躍し、戦線離脱したメンバーの穴を埋めた。アイカルドは準決勝のイタリア戦で決勝点を奪うなど、4得点を決め、ミゲリンのスピードある突破、強烈なシュート、攻守にわたるエネルギッシュなプレーはスペインの大きな武器となっていた。スペインには選手が欠けても、すぐに彼らに代わり国際レベルで戦える選手がいる。そんな彼らを生み出したのは競争力の高いスペインリーグ、またスペイン全土の下部組織だ。

今大会の勝利はスペイン代表というチームの勝利というよりも、スペインフットサルの勝利だった。

2年前にハビ・ロドリゲス、ダニエルが、そして今後はキケらが代表のユニフォームを脱ぐだろうが、スペインはベナンシオ監督のもとずっと大国であり続けるだろう。

スコアシート

UEFA欧州選手権クロアチア2012 決勝戦(2012/2/11)

Russia 1-3 Spain

  1. 1-0プーラ(ロシア)33分
  2. 1-1セルヒオ・ロサノ(スペイン)39分
  3. 1-2セルヒオ・ロサノ(スペイン)47分
  4. 1-3ボルハ(スペイン)49分

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