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王者相手ゆえの苦心、チームの信頼(吉川智貴15-16・19節インテル戦)

2016/08/27

モビスター・インテルのオルティスに対してディフェンスをする吉川智貴

後半終了間際にオルティスにプレスをかけるマグナ・グルペアの吉川。王者にもその強度の高いディフェンスは有効だった。

吉川智貴はスペインリーグにおいても、屈指のファーストディフェンダーだ。首位インテルをホームに迎えた19節でも出足が速く、強度が高く、運動量が豊富な彼のディフェンスは世界の猛者を苦しめた。ブラジル代表ダニエル・シライシ、スペイン代表ポラたちは吉川を前にすると不自由だった。

ディフェンスは順調に見えたが、一方で吉川はバランスに苦心していた。ボールを持つ選手にもっと深く踏み込みたい。しかし、深く踏み込んだ時に、壁パスで自分の背後を奪われては元も子もない。ボールを奪取するために、深入りしたいが、背中を奪われる危険性がある。リスクをなるべく小さくし、相手の懐深くまで入るにはどうすればいいか。インテル戦はこの適度なバランスが見つけられなかった。

ポルトガル代表リカルジーニョを中心にしたインテルはリーグ連覇中。今シーズンもレギュラーシーズン無敗で首位を快走する。インテルを指揮するのは、カハ・セゴビア時代に高橋健介を指導した名将ベラスコだ。彼が標榜するボールポゼッションを高めるフットサルを、クオリティの高い各国の代表選手がコートで具現化する。ボールは常に王者にあり、マグナ・グルペアはいつも以上にディフェンスの時間が長くなる。プレスをかける時にディフェンスはボールを持つ選手と周囲のサポートとの位置関係など把握した上で、アタッカーとの間合いを詰めなければいけない。プレスがかかっているか。かかっていないか。ボールホルダーの頭が下がり、視野が狭くなる。その姿勢になった時がディフェンスにとっては距離を詰めるチャンスだ。

しかし、各選手のスキルが高く、さらに常にサポートする選手が適正な距離にいるインテルは、プレスをかける糸口をなかなか与えてくれない。しかもインテルは自陣からじっくり攻撃を組み立てる。ボールは目の前にさらされている。守っている選手としては1歩踏み込みたいが、踏み込めば、サポートが近くにいるので、裏を奪われる可能性が高い。リカルジーニョ、ボルハ、ラファエルらインテリジェンスがある選手は、ディフェンスの後方のスペースを見逃さず、コンビネーションからディフェンスの背後を奪うのが得意だ。距離を詰めたいけど、自身の背後をいつも以上に気にしなければならない。王者インテルが相手だからこそ生じた吉川のジレンマだった。

とはいえ、吉川のディフェンスは有効だった。マグナ・グルペアの2点目はラファ・ウシンの弾丸クロスをハビ・エチベリがファーポストで合わせたものだったが、その起点となったのは吉川のボール奪取だ。吉川が相手陣内でボールを奪い、ラファ・ウシンにパスをした。吉川の得点に直結したディフェンスだった。

何よりも僕の印象に残ったのは、パワープレー時のディフェンスだ。リードを許すマグナ・グルペアはパワープレーを仕掛けた。吉川は攻撃要員ではない。インテルにボールが渡った時に、前線からボールを奪うことが役目のディフェンス要員として起用された。インテルのボールでプレーが再開した時、吉川はコートに投入された。そして猛然と前線にダッシュし、プレスを仕掛け、見事に苦し紛れのクリアを誘発し、マグナ・グルペアのボールにしてから、ベンチに戻っていた。その間、わずか数十秒。短い時間できっちり自分の仕事を果たす。監督のオーダーを少ない時間できっちりこなせる選手は日本ではもちろん、スペインでもなかなかいない。高いディフェンス力を誇示しただけでなく、マグナ・グルペアを指揮するイマノル監督の吉川のディフェンスに対する厚い信頼が手に取るようにわかる数十秒だった。

チームは敗れた。吉川もプレスに行く時のバランスに葛藤したが、彼のディフェンスがインテルを苦しめたことに疑いの余地はない。地元観衆の声が何よりの証拠だ。パワープレーのディフェンスのスクランブル時に吉川がボールを奪った時、約3,000人の観衆が拍手を送った。前半にそのディフェンスで相手を追い詰めた時にも拍手が起こった。派手なプレーではない。感嘆を誘うような妙技でもない。しかし、館内の誰もが彼の流す汗に、献身的なプレーに価値を見出していた。

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